明るくなったダム上を渡り旧林道跡に歩み入る。
篠さんが先頭で山ちゃん・まっちゃん・横さん・私と続く。ここ何日かの雨でダム沿いの林道はぬかるんで歩きづらい。しかし大したアップダウンも無く快調な滑り出しだ。前回の釣行時にヘロヘロになった事から多少不安もあったが今日は何だか調子が良い。最後尾からカメラを構える余裕もある。
歩き始めて50分で湯井俣橋に到着した。橋下を眺めるとデッカイ鯉が悠々と泳いでいた。
ここから林道は湯井俣川に沿って登ることになる。林道脇で淡いピンクのタニウヅキが色を添える。今の時期はウドが所狭しと伸びる盛りの様だ。周りの風景を楽しみ、山菜に頬を緩める。
手が届くほど近かった湯井俣の流れが、いつの間にか深い渓を造り、遥か下方で轟々と流れている。途中2~3度の休憩を挟み本流下降点上のテン場に到着した。
下降点のブナの白い樹皮に「イワナつりノアホ」と刻んである。渓を汚す釣り屋への怒りなのだろうか。
川を清掃に来る釣り屋もいるのに・・・と、ちょっと寂しい気持ちになる。
ここから小枝を手掛かりに斜面を一気に60m程下降して本流の川床に降り立つ。
本流に下りた我々を白く靄って冷え冷えとする空気が迎える。近くに雪渓がある様だ。雪代が入り濁った流れは野太い。下降した地点で朝食を取りながら先の様子を窺うのだが、いきなり渡渉するしか手の無い様子。みんなで不安を隠して苦笑い。
雪代混じりで底が見えない渡渉を慎重にクリアする。少し歩くとまた渡渉だ。テン場まで500m程らしいのだが先行き不安になる。出来る事なら水に入らずに進みたい。それほど雪代で濁った川は怖い。二度三度と冷や汗モノの渡渉を繰り返した先に、今度はいやらしい深みが待ち構えていた。
「ええい、ままよ!」と右岸の岩肌に取り着き慎重にへつる。へつった先の斜面に残雪の塊があり最後まで息が抜けない場所だった。残雪が周囲の空気を凍らせあたり一面に白い冷気を漂わせている。一人クリア・二人クリア・・・普通、誰かが落ちるのを期待したりするのだが、今日だけは別。落ちたらチョッと厄介だ。無事に渡って来るのを息を飲んで待ち受ける。その割にはカメラを構えたりしているのだが・・・。まあ全員揃って一安心だ。
さて、そろそろテン場到着だ。此処から先はテン場まで悪所は無さそうと判り釣りの虫が騒ぎ出した。その目で見れば岩魚の居住地は其処彼処にたんとある。
ザックを下ろして竿を出しミミズくんに願いを込めてポイントへ流す。”ズズッ・・、ゴツゴツ”岩魚の魚信が心地良い。軽く聞きを入れたが”スコッ!”と抜ける感じだ。ミミズくんがデカイのでお上品な岩魚のお口がまだ鉤まで届かない様だ。竿先を下げて充分に送り込む。いい加減痺れを切らせて手首でアワセる。”クーン!”と糸が張って7寸ほどの岩魚が釣れた。型は大したことないけれど久しぶりの感触に思わず笑顔で記念撮影。考えてみれば赤川水系初の岩魚である。昨年八久和川でボウズと言う山岳渓流釣り史上最大の快挙を成し遂げている私だった。(自爆)
一尾釣って取りあえず飢えを癒した私は先行した篠さんが気になり後を追う。と、ほど行かずにテン場の高台で幕営場を設営している姿が見えた。
「ああ、重てぇ!この辺で勘弁してやらぁ!!」背中に居る小泣きじじいの様なザックを一本背負いで投げ下ろす。
タープを張りシートを敷き一夜の宿を協力して作る。出来上がりに満足出来た例が無いのも不思議なモノだが「まあ、いかんべぇ。」と妥協も早い。「さて、それじゃ!」と到着祝いが始る。思い思い(重い重い)で持ち込んだMy缶ビールを片手に「くわぁんぱ~い!!」。
蒸し暑い梅雨にのど越し爽やかなビールが美味い。俺達にビールのコマーシャルやらせたらきっと最高だと思うけど、ダメかな?・・・。アサヒでもキリンでもドンと来い!
ビールに飽き足らずMy氷結サワーを取り出し宴会モードに突入しそうな奴がいる。慌てて「昼食に素麺作りま~す!」と今はまだ昼である事を強調するまっちゃん。「んじゃ、喰うか!」と根が生え始めたお尻を上げる。えっ?宴会モードは私でした!(自爆)
素麺を胃袋に叩き込んでタラのお腹。これぞ鱈腹(タラフク)と言うのだそうな。
「腹をすかせに釣りでもすんべ!」と竿を持って横の流れに目を移すと「ありゃ~ん!」何故だか濁流になっとるがね・・・。たった今、食事で使った道具を洗っていたお水なのに・・・。多分上流部の雪渓が落ちたかしたのだろう。
濁流の支流を諦め「本流やるべ。」と言う事になる。釣りが二度目の山ちゃんには篠さんが付き添う。横さんの仕度を待っている間にまっちゃん・山ちゃんが本流を釣り始める。順番待ちの私に篠さんが足元を指差す。「濁り、消え始めたね。支流どうぞ行っちゃって下さい!」と言うのだ。渋滞の本流を避けて横さんと支流に逃げる。今までの強い濁りを考えて流心から外れた緩い流れのまた外を狙う。
一つ目の渕で一尾上がる、幸先良し。
横さん天空の枝を釣る、幸先悪し。(笑)
適当に釣れて適当に面白い遡行が突然に終わる。”通ラズ”の出現だ。右岸をへつって越えようと、手を掛けた岩が”ボロッ!”・・・「えっ、取れちゃうの?!」んじゃ、次の岩に指を掛けて”ボコッ!!”・・・「抜けちゃうの?!」・・(爆) これじゃやってられない、岩魚も釣れたし・・もういいや!と竿をたたんで帰ろうと思ったら横さんが頑張ってるぞ。まあ、記念に写真撮っておきます。落ちればもうちょっと面白い写真になるのになぁ・・・・(爆)
テン場に戻ると篠さんがのんびりお休みしている。根っからの渓好きで、釣りがいい加減なお方である。聞くと弟子二人に釣果もあり後の心配無しと野放しにして来たとのこと。
確かあなたがここに来たのは昨年のオフでしょ?
竿出してないでしょ?
私はそんなあなたが心配です。(笑)
みんなが揃う前に宴会の下ごしらえを済ましておく。久方ぶりに岩魚を捌いた。確か前回はオフシーズンの富士山の裾野での鍋用ぶつ切りだったっけ・・・。今回はちゃんと皮を剥いて三枚に下ろした正統な捌き方だ。
しかし此処だけの話ですが、皮は新鮮なモノほどよく剥けるものなのだ。釣られた逆順に剥いていたらだんだん剥きづらくなるのがはっきり判る。今度は釣ったらすぐ皮剥いちゃおうか!(笑)
そうこうする間に全員の顔が揃った。濡れた服を着替えてスッキリと気分を変えて「くわぁんぱ~い!!」・・って、こればっかです。
飲みながら話ながら股の間でゴソゴソやっては「はい、ど~ぞ・・」と料理が飛び出してくる。後ろを向いてゴソゴソ、振り返って「はい、ど~ぞ・・」いつもながら手際のよい料理だ。
「あんたらイリュージョン好きなん?」
私は下ごしらえしたものの基本的にめんど~大嫌いで詰まるところ何もせず、おまけに尻の根が繁殖著しくどうしようもない。一生懸命に”消し専門のイリュージョン”に徹する。とうとう持ってきたMy氷結も底を突きMy焼酎200mlに突入である。
明るいうちから始めた宴会も、やっと7時頃に夕闇の気配が出る。その頃にはすでに出来上がり過ぎて飲み疲れ気味。一人二人と倒れるように横になる。
暫しの小休止。
タープを叩く雨の音が段々遠くなり爆睡。
寒さで目を覚ます。まだ8時だ。雨は小降りの小康状態。
「焚き火する?」
濡れた生木に手こずるうちに篠さんが起床。焚き火を任せてまたも飲み始める。ちょこと寝たのでヤル気が起きて料理を作る。気配でみんな起き出して二次会の始まりだ。
いつの間にか威勢良く燃える焚き火の炎が雨天に踊る。
渓泊りが二回目の山ちゃんも今回は自作メニューで参加。”他人の振り見て我が振りを・・・”と言うが、前回の体験が彼の遊び心を刺激した結果だろう。こうして渓宴会の輪が広がるのだ。何と楽しい輪なのだろうか。
気がつくと朝。
雨は止んでいる。
散らかった食器類、兵どもが夢の跡・・・。
ボ~ッとした頭で何をしようか考える。何もしたくない。寝ていれば良いのだがそれも勿体無い。ガサゴソ起き出すと横さんも目を覚ました様だ。二人で熱いコーヒーを飲む。
川を眺めると昨日より水が少ない。まだ雪代が出ていないからだろう。昨日の渡渉を考えると雪代が出ない内に退散した方が賢明だろう。少しでも早い出発が出来る様に朝食の仕度を始める。みんなも起き出して来る。
朝食を済ませて一気に荷物をまとめはじめる。テン場を元通りにして帰路に着く。減水した流れの渡渉は楽だ。昨日のへつりも渡渉でクリア。
帰る道は来た時よりも近かった。単なる精神的なもなのだろう。自然に溶け込んだ二日間だった。雑多な都会からの逃避だった。しかし疲れた足を引きずりコンクリートのダムの片隅に青く光る愛車を見たとき何故か素直にホッとした。家族の待つ家に帰ろう。「さあ、温泉だ!生ビールだ!!」
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