朝日納竿の旅 2000年9月15日~16日 朝日連峰荒川支流石滝川
9月も中旬、2000年の渓流釣りも終わろうとしている14日夜から17日にかけて山形県置賜地方の荒川支流に釣行した。19日に栃木渓流は禁漁を迎えるので事実上今期納竿釣行となるわけである。
通い慣れた朝日連峰登山口に早朝4時半到着。
今回のメンバ-を紹介すると弟、弟の職場の友人A氏、同じく先輩にあたる焼き肉屋のO氏、私の友人J氏そして私の5人である。5時半、重いザックを嫌々ながら背負い荒川の清流に足を入れた。トップが弟でラストが私、間に三人を挟んでの遡行である。
いつもと同じであるが半日は遡行のみのル-トであるから歩き詰めとなる。今回参加の0氏とJ氏は私より10歳年長組である。当然体力にも差が出るので荷物の分担で調整した。即ち私と弟が案内役及びポ-タ-役と言ったところか。
釣り屋が竿も出さずに源頭まで登り詰めてはまるで沢ヤである。まあ魚影の少ない沢を登っているので釣る気はサラサラ無いのだが逃げるイワナを見ては喜び、疲れを忘れていく思いである。徐々に高度を稼いできた遡行も尾根に近づくに従い急勾配が続く様になる。
一息入れると笑顔が戻ってくる。
さあ、これからが難所だ。
たった750m程の尾根を越えるのだが最後の1kmが勝負。腰を上げたのも束の間、ル-トが曖昧になってきた。来る度に様子が変わるのは自然の偉大さか。先発下見に私が急勾配のガレ場をゼ-ゼ-言いながらよじ上る。やっと見覚えのある場所を確認し下に声をかける。イワナの楽園に辿り着きたい一心で沢ヤに変装しているだけなのだ。
釣りが出来なきゃこんな苦労するもんか!!
ガレ場を抜けると最後の難関「泥壁登り」。
取り付く木も草も上部に行かないと無いツルツルの壁である。普段は悪戦苦闘の壁に今回はニヤリ。ご老体を楽園にご案内するにはザイルが不可欠である。尾根の大木に結んだザイルが我々を尾根へと引っ張り上げてくれる。5人とも無事に尾根からの展望を眺められたのは言うまでもない。
無事に尾根を越えれば九分通り遡行は成功である。ご老体二人も満面の笑みだ。
沢を源頭まで登り詰め小さな流れを頼りに確かな沢の誕生を見る。それが釣り屋が尾根越えをする醍醐味である。
テン場まで下る沢ではイワナもお出迎えしてくれる。下るに従い沢ヤから釣り屋へと化けの皮が剥がれていく。
テン場に着いた時には5人とも完全に釣り屋に戻っていた。
今回の釣行で一番悩んだのがテントである。それぞれテントを張るほどテン場は広くない。テン泊源流釣行経験の無いメンバ-はザックも小さい。仕方なく5人用ド-ムテントを持参した。源流にコ-ルマンオ-トキャンプ用テントを張ったのは我々が最初で最後ではないだろうか。あ~恥ずかしい!
しかしガサと重さの種もテン場に設営すれば快適な住居だ。まあ、遊び心のなせる技ではある。
さて肝心の釣りはどうなったか?
初めての三人に上流を譲り、私と弟は下流へと沢割りも済んでそれぞれ釣りに出かけた。J氏を除けば皆釣りのベテランである。心配はいらない。ご老体同士パ-ティ-を組んだ方が遡行も楽であろう。
下流に向かった私と弟の目的は最初の支流であった。ところが最初の支流は見事な30mの滝となって流れ込んでいた。これでは支流はアウトである。仕方なく本流を釣り下る。
初めての下流も見事な渓相が二人を迎えてくれた。イワナは居るか?順番に竿を出すがいつもと違い釣り下る体勢に竿が出しづらい。
見事な落ち込みやプ-ルに竿を出すが仕掛けに何の反応も無い。「何か嫌な感じだね。」「おかしいね??」と不安がよぎる。まさかこの渓でボウズなど考えた事もない。それが現実となるまでに時間はかからなかった。
8m程の滝を迎え下ったら上がるのに苦労する。此処まで魚影が有れば気持ちも違うのだろうがアタリも無い状況では先に進む気力も無くなる。「テン場に戻ろう。」二人とも重い足取りで踵を返した。
テン場に戻って一息入れて冷えたビ-ルに手を伸ばす。本当はみんなが帰ってから飲む筈だったのに帰還予定時刻より二時間も早いのだ。飲まずに居られない!
午後三時、約束通り上流組のご帰還である。が、遠目にも足取りが重い様だ。どうしたのか?理由は簡単明瞭、釣果が悪かったらしい。魚影は有るのだが型が小さいと言うのである。
「そんな?!」
「ホント?!」
二人揃って驚きの声を上げた。「そんな筈無いよ、居るよ此処は!」身をもって魚影の濃さを体験している弟と私には信じられない報告である。
たった二週間前にリリ-スした尺上イワナ、目にした尺上、逃げ回る八、九寸は何処に行ったのか。
翌日は全員上流に入った。もちろん先行は初めての三人。
弟は一つ目の沢に、私は遅れて本流を上る。
確かに逃げ惑うイワナが居ない。八寸九寸を蹴散らして歩いた面影が無い。
昨夜炉端会議で分析した結論は「渓が明るい」「水が少ない」の2点だった。水が少ないのは感じていた。初回、2回目と比べてポイントとなる場所が少なくなっている。気を取り直してそれぞれイワナと遊ぶ事に専念した。私は予定通り本流を釣り上った。
少ないとは言え日頃入る渓とは比べものにならないくらいイワナに遊んで貰える。上流は朝陽を浴びて金色に光っている。寝不足の目に痛いくらいだ。今日は帰還予定なので時間に追われ先を急いぐ。それでも「ここぞ!」というポイントでイワナは遊んでくれた。
イワナと遊びながら魚止めまで釣り上り最後の仕掛けを伸ばす。残念ながら魚止めの主は8寸強のイワナだったがこれで十分だ。今年一年、楽しい想い出と記録的な出逢いをくれた渓に別れを惜しみながら2000年の竿を納めた。
「また来年もよろしく!!」